理窓会記念自然公園エンサイクロペディア NO.5 市民活動から始まった地域連携

利根運河の生態系を守る会を設立
1997年11月、千葉県都市部は、オオタカ(当時は種の保存法の指定種)の営巣する流山市の市野谷の森(50ha)のうち約21haを千葉県立公園として保全整備する基本構想をまとめた。1999年6月頃、筆者も所属する市野谷の森の保全活動団体「流山自然観察の森を実現させる会」に、野田市江川地区(利根運河上流右岸に隣接)にもオオタカがいるので調査できないかと、複数の野田市民から相談があった。そこで、利根運河とこれに隣接する野田市江川地区、柏市大青田地区、東京理科大野田キャンパスの理窓公園などの谷津田環境の調査・保全のために「利根運河の生態系を守る会」を1999年10月に設立した。

野田市との連携
2002年7月、野田市江川地区の2年間のオオタカの行動圏調査などをまとめ、江川地区土地区画整理事業の計画変更要望書を県知事と野田市長に提出。次に2004年に続き、2005年も江川地区でオオタカ3羽とサシバ2羽の巣立ちを確認し野田市長に報告。2006年2月野田市は江川地区90haの大型ビオトープ整備構想を記者発表した。構想の内容は、農業生産法人の設立と用地取得、水田型市民農園の開設、斜面林の保全、利根運河の自然環境保全との連動などであった。
2011年12月、野田市は特別天然記念物コウノトリの生育域外保全・野生復帰に関する有識者会議を設置。2012年12月、多摩動物公園からコウノトリ2羽を譲り受け飼育を開始。コウノトリ飼育のバックボーンとして、2015年3月に『生物多様性のだ戦略』を策定、環境に優しい農業の推進やコウノトリをシンボルとした自然と共生する地域づくりをスタートした。2020年9月から2021年10月にかけて市民団体の協力を得て自然環境拠点13地点の動植物調査を実施、1,517種の動植物の確認をベースに、2023年3月に『第2期生物多様性のだ戦略』を策定したところである。

 

流山市との連携
一方、流山の最初の『生物多様性ながれやま戦略』の策定は2010年3月、市野谷の森地区と利根運河地区の2地区を重点地区とした。利根運河地区は、利根運河、理窓公園、新川耕地北部の3拠点で、重点2地区8拠点を設けた。2018年3月策定の『第2期生物多様性ながれやま戦略』では、上記2地区に宮園地区、古間木地区の2ヶ所を加え、新川耕地西地区を独立させ、市全域で計5地区13拠点と拡大した。今、2023年6月から『第3期生物多様性ながれやま戦略』の審議を進めている。流山市では、生物多様性戦略に基づき2011年7月から、40~60名の調査員による動植物モニタリング調査が開始され、現在も毎年続けている。調査項目は、植物相、鳥類、チョウ類と、指標種としてカヤネズミ、ヘイケボタル、ニホンアカガエルの6項目である。理窓公園でも、この6項目のモニタリング調査が行われており、その調査結果はオープンデータとして流山市HP上で公開されている。

東京理科大学野田キャンパスとの連携
2004年2月21日(土)、澤芳昭常務理事に応援いただき大学との共催で第9回運河塾を、野田キャンパス講義棟で開催した。講師は千葉県立中央博物館元副館長の大場達之先生(植物社会学)で、初めに天沼秀夫管財課課長補佐と理学部生物学研究室の長島秀行教授にご挨拶を頂戴した。筆者はこれを縁に2006年、理窓公園を含めた野田キャンパスの歴史と自然誌調査・取材を集中的に行う機会を得た。
利根運河の生態系を守る会では、1999年10月から2023年9月まで計200回の観察会を実施しつつ、独自の調査も行った。植物調査チームでは、2006年に『利根運河の花ごよみ』を、2008年に『東京理科大学理窓会記念自然公園の植生調査』を、2014年に『野田市江川地区植生調査報告書』を、2019年に『柏市大青田の森植生調査報告書』を、2021年に『流山市東深井古墳の森の歴史と植物』と計5冊を刊行した。
調査の腕を上げた植物調査チームは今、理窓公園の植生再調査を開始した。何故なら、利根運河沿川観察会や散策の一番の人気拠点「理窓公園」の生物多様性と谷津田地形の奥深さを再確認して総カラー冊子にまとめ、もっと多くの方に知って頂きたいからである。

開園前の理窓公園を西潟正先生の案内で
「牧野植物同好会」の方が、開園準備中の西潟正先生に開園前の1980年4月、公園予定地を案内いただいた。西潟先生から「ぼくはここをとても大事にしているんだよ」の一言が、今でも鮮明に思い出すと話してくれた。開園前の理窓公園にはホタルカズラやイカリソウなども生育していたと添えてくれた。

(23〜26pの引用文献:『理窓』および『日本植物学会2017年野田大会公開講演会要旨集』)

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