新しい価値を創造するための、学びと研究の拠点であり続けるー東京理科大学 学長 石川 正俊

この度、第11代学長に就任しました石川正俊です。東京理科大学はこれまで、社会に役立てる真の実力と人間性を併せ持った人材を、教育界・産業界に多く輩出してきた実績を有しています。その運営を担うことは非常に光栄であるとともに、責任の重さも自覚しています。

近年、大学教育と研究活動を取り巻く環境変化のスピードが、ますます加速しています。この急激な変化に対応するための大切な条件は、140年かけて培ってきた東京理科大学の運営基盤だと思っています。本学は日本における私学随一の理工系総合大学として、充実した教育・研究体制、優れた教員・職員の方々、国内外の他大学・研究機関・民間企業との連携、校友会とのネットワークなど、運営に係る基盤がたいへん強固です。加えて自由な学風の下、学生諸君と研究者が活き活きとして多様なテーマに取り組んでいます。これらの基盤をさらに磨き上げることで、世の中の変化を牽引するような新しい価値を生み出していけると確信しています。そもそも、「理学の普及を以て国運発展の基礎とする」という建学の精神には、時代に即した新しい要素を理学に取り込んでいくのだというニュアンスが含まれており、140年前にこれを掲げた本学に深く敬意を表します。今日では、学部の改編や各種研究センターの設置といった諸施策の中に、この精神がしっかりと反映されています。そして私の使命は、建学の精神を現代的に解釈し、これからの社会に合致した新たな施策を立案・推進することだと認識しています。

理科大を起点とした新しい価値を創出し続けるために、私たちはまず、理学の概念をより広く捉える必要があります。その上で、個々の学生が設計するキャリアプランが、社会環境や研究分野の変化とともに変わっていくことを前提とした教育モデルの確立に注力していきます。今後は、個々の学生・研究者が最初に専攻した分野のみならず、隣接する複数の分野へと移行できる教育モデルが当たり前になっていくはずです。本学においても、分野ごとの垣根を越えて学生自らが変わっていける、基盤的な力が身に付くカリキュラムや制度を導入します。そのために、基礎教育の中身をバージョンアップするとともに、専門教育に関しても、すぐさま隣接分野の学問を深掘りできる実力を養成していきます。基礎教育という「横糸」と、専門教育という「縦糸」をしっかり整備しながら、以下に述べます二つの観点に立って、研究活動を強力に推進します。
ひとつは理学の基本を深掘りしながら、アナリシスによって与えられたテーマを解いていく「問題解決型の研究」です。そしてもうひとつは、“こんなモノやサービスが登場すれば、世の中はもっとおもしろく便利になるのでは?”という着想から始まる研究、いわば「まだ見ぬ価値の創造」です。ただし、価値の有無を決めるのは、研究者自身ではなく社会です。そこで研究活動の過程に、さまざまなチャンネルを通して、社会からの期待を効果的に取り込める仕組みを導入します。学外の人々から得られたさまざまな反応は、我々が次に開拓すべき技術分野や、研究対象の潜在的な価値を見出す原動力になるはずです。以上の2つを一体として捉え、双方を往来するような研究活動を、これからのスタンダードにしていきます。

理窓会を中心とする東京理科大学の卒業生は、本学と社会とのコミュニケーションを司る重要なチャネルです。同時に、現実の社会の中で生み出しておられる価値を、大学にフィードバックしてくれる大切なパートナーでもあります。だからこそ、本学とのリンクを密にしながら、社会における多様な経験やアウトプットを、ぜひキャンパスで学ぶ現役学生にも伝えていただきたいのです。そして大学側からは、これからの新しい科学技術の姿を積極的に発信していきますので、それらを社会人の視点で率直に評価していただければ幸いです。
本学のさらなる発展に向けて、理窓会会員の皆様のご支援とご協力を賜わりますよう、重ねてお願い申し上げます。

Profile
・学歴
1977年 東京大学工学部計数工学科卒業
1979年 東京大学大学院工学系研究科計数工学専門課程修士課程修了
1988年 工学博士(東京大学)
・職歴
1979年 通商産業省工業技術院製品科学研究所 研究員
2020年 東京大学情報基盤センターデータ科学研究部門 特任教授(現在に至る)
東京大学 名誉教授
・受章等
2011年 紫綬褒章
2018年 立石賞特別賞
2021年 市村学術賞功績賞
その他国内外における学会・会議の受賞多数
・学会などにおける主な活動
計測自動制御学会 会長(第50期)
国際計測連合 会長(第17代)

関連記事

ページ上部へ戻る