経験から見えてきたモノづくりからシステムデザインへの道

略歴:
東京理科大学理工学部1992年卒、理工学研究科修士課程(関根慶太郎研究室)修了後、1994年日立製作所に入社、パワーエレクトロニクスの研究開発に従事、世界初の直接水冷型両面冷却パワーモジュール及びEVインバータを製品化、茨城大学で学位(工学)を取得。2018年より主管研究長に就任、現在に至る。

主な受賞歴:
(1) 1998年(一社)日本電機工業会 電機工業技術功績者表彰 奨励賞
(2) 2018年(一財)第28回つくば奨励賞 実用化部門 受賞
(3) 2021年(公財)市村清新技術財団 市村地球環境産業賞
(4) 2021年 文部科学省 科学技術 開発部門 文部科学大臣表彰 受賞
(5) 2021年(一社)エレクトロニクス実装学会2020年度論文賞 & 技術賞
(6) 2022年(公財)大河内記念会 第68回大河内賞 大河内記念賞

学生生活の振り返り
理科大に入ったのは、1988年、バブル時期でモノを作れば売れる時代でした。学部時代は、吹奏楽部に所属し部長をやらせて頂き、10人そこそこの部員を4年で80名規模にまで増やせたことが思い出です。その際、1部体育局第16代副支部長として野田エリアの運営に携わり多くを学びました。学業では、当時半導体ブームの中で、アナログ集積回路の重要性が高まり、その業界で有名な関根慶太郎先生、兵庫明先生の電子研の門を叩いたわけです。この選択は、今思うと自身の人生の中で最も重要な選択でした。

会社に入った訳
小学校低学年のころから、模型やラジオ作りが趣味で秋葉原に通っていました。幼いながらに、将来モノづくりの道に行くと決めていました。その思いは、大学卒業まで変わらず自身に迷いも有りませんでした。ただ、周囲の方々からは、中津は教員に向いているよ、周りの人にパワーを与えるオーラを感じると言われ、ほんの少し迷いましたが、バブル崩壊の中で日立に入社しました。

社会人としての進化
入社した日立研究所は、電力送配電など重電系パワーエレクトロニクスが中心でした。一方、市場では省エネ機運の高まりとパワー半導体の性能向上により、民生系の家電や照明、工場の動力源にパワーエレクトロニクスの代表技術であるインバータの適用が進み始めていました。しかし、当時の日立はこの分野の研究者が不足していて、経験のない私を投入する状況でした。私にとってのパワーエレクトロニクスは未知の世界でしたが、高速に動作し始めたパワー半導体の制御に、アナログ回路の知識が役だつことに気付き、4-5年で大きな成果を出すまでに習熟して行きました。
2000年過ぎからは、ハイブリッド車やEV向けのインバータの開発を始め、2004年から直接冷却型パワーモジュール搭載インバータ、2013年から世界に先駆け直接水冷型両面冷却パワーモジュール搭載インバータを開発し、主要自動車メーカに採用され、新規事業を立上げることに成功しました。

モノづくりからシステムデザインへ
2016年に短期間でしたがスタンフォード大学でデザイン思考を学びました。参加当初は、製品単品の開発に生かそうと参画しましたが、全く別な気付きを得ることになりました。その気付きとは、モビリティやビル、それらが集い行き交う地域やエリアをイメージし、そこに住み暮らし行き交う人やモノに価値を与えるシステムデザインへの扉でした。
会社に戻り始めた仕事は、カーボンニュートラルに向けたEVの普及に対して何をすれば良いのか、必要なシステムは何かを考えることでした。答えの一つは、EVドライバーの不安を解消すること、その中で最も大きな不安が充電であり、解消に必要なのが短時間に充電可能なEVと再エネ充電システムであると確信しました。その後、充電スピードを上げるために電池電圧を400Vから800Vに高める開発を行い2019年に量産化しました。2021年に充電システムとしてどこでも何時でも好きな時間にお好みに充放電できるマルチポートEV充電システムの開発に漕ぎ着けました。

学生の皆さんへのメッセージ
学びの場は、何時、どこで出現するか分かりません。私がデザイン思考に魅かれたように自身の興味や好き嫌いなど様々な状況で変わりますし、逆に意図して作ることもできるのです。学びの意味は深く、聞きかじりではなく実践して、手や目で感じて初めて身に着くモノと思います。是非、モノや現場に触れることを大切にして頂ければと思います。

関連記事

ページ上部へ戻る