先進工学部 機能デザイン工学科 ナノメディカル工学研究室 からだの中の「ナノ」を知る

研究室紹介
工学分野で「ナノ」と言うと、カーボンナノチューブに代表されるようなナノスケール材料や、ドラッグデリバリーのための高分子ナノ粒子などがよく知られています。しかし、生物の関わる「ナノ」はそれだけではありません。私たちの生体を構成する細胞も、体内で機能を発揮する様々なナノ粒子を作り出しています。それらはどのような機能を果たしているのでしょうか。

生体の必須構成要素である「油」(脂質)の輸送がその一つです。脂質はからだにとって主要な成分であり、血液の中にも存在します。私たちのからだの「3分の2は水」であり、「体重の約13分の1」は血液。この血液は水を溶媒として、栄養など様々な分子が流れています。その中には、皆さんが健康診断の血液検査で測定もしている血中脂質として、中性脂肪やコレステロールがあります。“悪玉コレステロール” や “善玉コレステロール” という言葉を聞いたことのある人も多いでしょう。この「コレステロール」も脂質であって、水には溶けません。「あれ、でもコレステロールは細胞でもない、でも水に溶けない。しかし、血液を見てもその中に油が浮いたりはしていない。いったい血液中に「脂質」はどうやって存在しているのか・・・?」

その答えが「ナノ粒子」です。「リポプロテイン」という言葉を大学で覚えた方も多いと思いますが、血液中で脂質はタンパク質などとくっつき合って、直径数~数百ナノメートルのナノ粒子を形成しています。生体はこういったナノ粒子を体内でつくることで、血液内や体内で単一では安定に存在できないものも安定化できるのです。油のように水に溶けにくいものだけでなく、からだの中で分解されやすいものもナノ粒子の中では分解されずに、長時間存在したり機能を発揮したりすることもできます。人工的には、新型コロナウイルス感染症 (CoVID-19) 対策で新しいタイプのワクチンと話題になったmRNAワクチンも、ナノ粒子の中にカプセル化することで実現したものです。RNAは、遺伝情報を保存する「DNA」と構造がわずかにしか違いませんが、RNAの方は生体内で容易に分解されてしまいます。なので、RNAをそれだけで体内に投与してもワクチンとしては機能しませんが、ナノ粒子の中に封じ込めて投与することで、体内ですぐには分解されずに免疫系の特定の場所に運ばれ、その人に免疫を与えるという機能を果たしてくれるのです。

そのように生体内で面白い役割を担う「ナノ粒子」ですが、これをうまく集めることで疾病の診断に使える情報が得られます。この「ナノ粒子」をうまく集めるには、前処理や分離・回収法に工夫が要ることが多く、私たちの研究室では目的に合わせて容易にスペックを変えられるナノ粒子の新しい分離・回収技術の開発に取り組んでいます。また、超微細なナノ構造の上において、私たちの体を成す生体分子が新奇な振る舞いをすることも分かってきており、この振る舞いを分光学的に解く研究も研究室で進めています。

研究テーマの例
●ナノ粒子表面におけるタンパク質構造変化メカニズムの分光学的分析
●生体由来ナノ粒子の分取デバイスの開発
●機械学習による生体分子(長鎖ノンコーディングRNA)の新機能探索

卒業生コメント
板野 凌大 修士課程2年生(先進工・マテリアル創成工2022年3月学部卒)
研究室では、脳血管周囲の病変形成に関わる新規ノンコーディングRNAの機能解明に関する研究を行っています。居室では先生の机も同じ列に並んでいるため、研究でわからない部分を聞くことはもちろん、同期・後輩たちと談笑することもよくあります。また挑戦や成長を推奨してくれる研究室でもあり、日々の進捗発表等を通じて論理的思考力や発表スキルも身に付けることができ、非常に充実した大学院生活を過ごすことができていると感じています。

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