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TUS 2022 Special Talk 伝統から革新へ。理科大が未来を拓く
- 2022/4/28
- 大学, 理窓 2022年5月号
東京理科大学では、2022年1月1日に石川正俊学長が就任し、浜本隆之理事長とともに新体制が始動した。 昨年140周年を迎え、新たな一歩を踏み出す理科大の未来を語っていただいた。
※本記事は、2022年1月1日に本学公式ホームページにて公表された「TUS2022 Special Talk」を抜粋・編集したものです。全文はこちらからご覧いただけます。 https://www.tus.ac.jp/st2022/
「TUS VISION 150」長期ビジョンが描く理科大のあるべき姿
浜本:2017年に策定した「TUS VISION 150」は、理科大の長期ビジョンです。根幹に「日本の発展を支えてきた理科大」から「世界の未来を拓くTUS」への発展を掲げ、創立150周年である2031年を見据えて理科大のあるべき姿を描きました。この長期ビジョンを実現していくなかで、社会は大きく変化してきました。その変化を受け止め、長期ビジョンに繋げるため、2022年から2026年までの5年間の中期計画を策定しました。新型コロナウイルス感染症の影響によりオンライン授業が増えたことで教育のDX化が加速しています。この大きな変化は、教育の空間や時間に変化をもたらしました。この先オンラインを活用し、教員が所属とは別のキャンパスの学生を指導すること、離れたキャンパス間で連携を取り学生たちの活動をサポートすることもあるでしょう。こうした要請に即して全学でしっかりと連携を取りながら進めていきたいと思います。
石川:私が今まで教えてきた学生には、「教科書には今までの真実は書いてあるが、未来の真実は書いていない。未来の真実をつくるのはあなたたちだ。」と伝えてきました。過去の真実を教えるのは教員ですが、未来の真実は自らで導き出すのだという創造的なマインドを持った学生を育てることが必要です。私が今まで教えてきたことが「TUS VISION 150」にもありました。これこそが科学技術や社会の変革を生み出す力になると思います。
浜本:教育面で付け加えるなら、現在、学部学科の横断的な教育に取り組んでいます。所属している学科の専門分野だけでなく、横断的な教育を増やしています。
石川:教育のDX化によって大学の発展も加速していますね。インターネット技術の発展で、一つの革新的な科学技術の新たな知見が瞬く間に世界に拡がって人類共通の知識になるという、スピード感のある時代です。こうした中では、理学=科学技術の定義も変わってきます。こと現代社会において、科学技術は多様化と細分化が進んでいますので、「世界の未来を拓くTUS」を目指す理科大では、次々に新しいものを生み出す発展を前提とした仕組みづくりが必要でしょう。今、科学者教育に求められるのは三つの力です。それは、「今の技術を支える力」、「次の時代(科学技術)を創造する力」、「さらにその先の変革する科学技術に適応できる力」です。ともすれば教育は、今の科学技術だけを教えがちですが、現在はさまざまなところから情報を得ることができます。だからこそ、理科大の教育では今の科学技術だけではなく、未来への道筋を示していかなければなりません。それが、理科大の強みとなり、輩出する人材の強みになると思います。
産学連携が拓く、科学技術の未来
石川:一方、今まで大学の基本的な役割であった教育と研究に加えて、新たに社会貢献が加わったことで大学は社会と連携を強めてきました。科学技術をベースに産学連携を行っていくことが強い力を持つ時代です。
浜本:理科大でも産学連携には力を入れており、2020年度から、民間企業や研究機関などと連携して教育研究の充実を図る「社会連携講座」に取り組んできました。昨年からは企業との共同研究の新しい枠組みとして「共創プロジェクト」を創設し、企業だけでは取り組み難い新規マーケットや未来のニーズに対する研究を行っています。今後こうした学外機関との共創を一層活性化させるべく、サポート体制をより強化していく構想を練っているところです。
石川:私は以前から、産学連携の取り組みに携わってきました。その中で社会と大学、あるいは社会と科学技術が良い関係になるように力を尽くしてきたつもりです。現在の科学技術の構造は、二つのタイプがあるといえます。一つは、アナリシス型の「わかる科学」。これは与えられた問題を分析(=アナリシス)して解を導くもので、今までの科学技術はこのタイプをベースに発展してきました。今、これとは別のタイプの構造が必要になってきています。それが、シンセシス型の「つくる科学」です。何もないところに新しい仮説を立てて新たな価値を提案し、科学技術をベースに実現(=シンセシス)して、社会に「いいね」をもらうことで新しい社会の価値を生み出す科学技術です。この際、その価値を認めるのは研究者自身ではなく、社会です。社会に受け入れられることで新たな価値が生まれ、社会を変えることになります。私は、社会がどれだけ受け入れるかを社会受容性と呼んでいます。ニーズとは違い、社会受容性のある科学技術を生み出すことが重要となります。現代では科学技術・研究の価値を創造するのは大学や企業で、それを評価するのは社会です。社会受容性を測るには、社会に発信する力、アピール力も求められているといえます。
浜本:大学発ベンチャー企業の数は私大ではトップクラスですが、今後も増やしていきたいですね。担当者が積極的に推進していますが、思わぬ学部学科の学生が思いもよらないアイデアで起業していくので非常に刺激的です。理科大の横断的な教育の中で、異分野同士の方々が起業しています。しっかりと後押ししていきたいと考えています。
石川:産学連携で参画いただく企業が求めている新規マーケットや未来のニーズは、社会に認められて初めて価値が生まれます。企業にとっては、共同研究・実験で投資面のメリットがあり、大学ではそのチャレンジから新しい科学技術を生み出すことができます。加えて、未来の真理を探究するには、アナリシス型の「わかる」科学にシンセシス型の「つくる」科学を一体として進める必要があります。日本は全体として、この「つくる」科学が遅れているのです。世界をリードするためには、この「つくる」科学の必要性について訴え、先端の科学技術を持つ理科大の中で未来を見据えた活動ができたらと考えています。
世界の未来を拓くTUSへの戦略的施策について
石川:現代社会において、また今後の大学にとって、多様性はキーワードになると思います。学生や教員の多様性を維持しつつ、理科大の個性を同時に出すような戦略を立てなくては世界に勝てません。さまざまな学会を通してアピールするとともに他の大学や研究機関と連携を強めて、その中で評価を受ける必要があります。理科大の学生は、海外で通用する実力を持っていますから世界でチャレンジしてほしいと思います。同時に、留学生の受け入れの強化をして、理科大の中でも多様性と個性を出していきます。世界から見ても魅力的だと見られるためには、学生たちに目標があり、研究者たちがわくわくする大学でなければなりません。実際それだけの広い分野をカバーしていますし、世界から注目される理科大がそこにあります。
浜本:「世界の未来を拓くTUS」は、理事会の課題の一つでもあります。「世界」を掲げていますが、まずは日本でのプレゼンス(存在感)をしっかりと固めてから世界のTUSを目指していきます。組織としては世界に認知され、世界的課題に取り組む研究拠点、世界から学生や研究者が集まるような大学にしたいですね。学生たちには世界のどこででも活躍できる力を身につけていただき、世界の持続的発展に貢献できる人材を育てていきます。
150周年の節目に向けて、大学を発展させて社会に貢献していくことで、今後も必要とされ選ばれる大学でありたい。学生や教職員にとって教育研究の魅力ある環境を充実させていくのが理事会のミッションです。今期の理事会の活動が始まる際に、目指すべき大学像として「日本の理科大から世界の理科大へ」、「より一層の愛校心、誇りを抱ける大学へ」を定義し、それを基に今後取り組む課題を7項目にまとめています(※)。これまで、教育力・研究力のランキングでは上位に入っており、理工系総合大学として確固たる地位を築いてきました。今後、これらの課題を着実に実現し、本学の魅力をさらに高めていきたいです。
※ 取り組む課題……①教育研究力の向上、②国際化の推進、③優秀な学生の確保、④在学生への支援の強化、⑤キャンパスの整備・再構築、⑥ブランディングの強化、⑦同窓生との協働
科学技術に変革、 理科大を価値の創造拠点へ
石川:これをきちんとしたカタチにしていくことが、私の役割です。理事長と二人三脚で進めていきたいと思います。大学には従来までの知の集約拠点としての役割に加えて、社会価値の創造拠点としての役割が求められています。これまでに社会になかった価値を大学発で提示していくことができるはずです。より一層、社会に対して強く連携を図っていきたいですね。
浜本:ぜひとも理科大とともに社会を変える取り組みに参画いただければと思います。新しい価値観を取り入れて理科大の教育研究のさらなる発展・価値向上を図り、社会貢献を通して必要とされる存在であり続けたいですね。こうした理科大の活動の基本には教育研究理念「自然・人間・社会とこれらの調和的発展のための科学と技術の創造」があります。これは、現代の社会課題であるSDGs(Sustainable Development Goals)の精神と符合しています。科学技術の発展に寄与して、国際社会に貢献するためには社会課題の取り組みも忘れてはいけません。これからも石川学長とともに、さらなる発展に全学が一丸となって取り組んでいきます。