基礎研究を推し進める東京理科大学の優れた研究所を訪ねて(第9回) 研究推進機構 生命医科学研究所(4)【免疫アレルギー部門編・分子病態学部門編】

生命医学研究所の免疫アレルギー部門・分子病態学部門を訪問し伊川友活教授と久保允人教授にお話を伺った。

【免疫アレルギー部門のミッション】
本研究部門では、感染症やアレルギー、がんなどに関わる免疫細胞の分化・成熟機構や機能制御の仕組みを解明し、免疫細胞を用いた新しい治療法を開発することを目指しています。

【伊川友活教授】

♦伊川友活 研究室
伊川教授は大学院博士課程へ進学してから免疫学の研究をスタートした。それまでは機能性高分子ポリマーの研究をしていた。桂義元教授(当時)に師事し、T細胞分化の研究を行った。それ以来、免疫細胞が作られる仕組みや免疫系の進化に魅せられ現在に至る。生命医科学研究所には2018年4月に着任した。伊川研究室では主に①免疫細胞の発生・分化、②免疫細胞のがん治療への応用、③免疫細胞のがん化(白血病)の3つのテーマで研究を行っている。①のテーマでは、T細胞やB細胞の分化機構の研究を行っている。伊川教授らは以前に、無限に増幅する多能前駆細胞である人工白血球幹(induced Leukocyte Stem:iLS)細胞を開発することに成功した(図)。iLS細胞は試験管内で無限に増殖するだけでなく、様々な白血球(リンパ球や顆粒球などの免疫細胞)を作る能力を持っている。そこで、このiLS細胞を用いて分化を制御する遺伝子の発現や代謝などに注目し、これらが有機的にどのようにつながっているのかを研究している。②のテーマでは、iLS細胞の高い自己複製能を利用して、iLS細胞からT細胞受容体(TCR)改変T(TCR-T)細胞やキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor, CAR)-T細胞を作製する技術開発を行っている。TCR-T細胞やCAR-T細胞は新しいがん治療法として注目されており、もしこれらの細胞をiLS細胞から作り出すことができればこの治療法がより身近なものになると期待される。③のテーマでは、免疫細胞が作られる過程でがん化する(白血病化する)メカニズムの研究を行っている。伊川教授らは最近iLS細胞に遺伝子操作を加えることにより、白血病を引き起こすマウスモデルを確立した。そこで、この白血病発症モデルを用いて、遺伝子異常が白血病を誘導する仕組みの研究や、新規阻害剤の開発を行っている。

【分子病態学部門のミッション】
サイトカインを対象として、病気のメカニズムを理解できるようなモデルシステムを作り上げて、その分子メカニズムを紐解いていくことを目指しています。病態に基づくモデルシステムを作ることで、創薬に繋がる研究を目指しています。

【久保允人教授】

♦久保允人 研究室
久保研究室では、感染免疫とアレルギーに関連する免疫学を中心とした生体防御機構の研究を行っています。免疫系は数多くの細胞がからみあってその運命決定がなされています。免疫系の場合、自己・非自己を見分けながら様々な細胞がネットワークを形成し、分化・増殖・機能発現・死が巧妙にプログラムされています。免疫学研究は、T細胞とB細胞抗原認識レセプターに始まり、その下流で細胞内に情報を伝えるシグナル伝達分子の解明、そしてサイトカインとそのレセプターの存在をこれまで明らかにしてきました。免疫システムは、個々の免疫細胞が他の細胞と複雑にネットワークを形成して、生体の防御機構を制御します。
私の研究室は、細胞間ネットワークを繋ぐ情報伝達分子サイトカインと言う液性因子に注目して研究している。免疫システムの中でヘルパーT細胞は、免疫の司令塔としてこのサイトカインを使って感染などに対する防御機構をコントロールします。この際ヘルパーT細胞は異なる働きを持つサイトカインを最適なときに適所で産生することで、司令塔として働けるわけです。しかしながら、新型コロナウイルスのように炎症をコントロールするようなサイトカインが過剰に作られてしまうと、サイトカインストームが起こって自分の体に傷害を与えてしまうようなことが起こります。アレルギーも同じで、本来は寄生虫感染の時に活躍するヘルパーT細胞(2型ヘルパーT細胞 Th2細胞)が、我々の身の回りにあるもの(アレルゲン)に反応して過剰なサイトカインを作ることで、過剰な炎症が起きることで病気に至ります。したがって、キイとなるサイトカインの働きを抑制することができれば、アレルギーはコントロールできます。実際、アレルギーをコントロールするサイトカイン、インターロイキン4(IL-4)やIL-13の働きを抑制する抗体医薬は、アレルギー性の皮膚炎症を引き起こす病気、アトピー性皮膚炎や気道で起こるアレルギー炎症による病気、喘息を直すことができます。また、免疫系が自分の体の一部を攻撃する疾患の一つ慢性関節リュウマチは他の炎症性サイトカインは、10年前まで不治の病とお医者さんも打つ手のない病気でした。しかしながら、TNFやIL-6を抑制する抗体医薬が治療薬として使われるようになってから、かなりの患者さんが寛解するようになっています。このように、サイトカインは、病気の多くをコントロールするとても大事な情報伝達分子であり、非常に良い創薬ターゲットになることが臨床現場を中心に幅広く知られるようになりました。
上記の理由から、私どもの研究室では、感染免疫とアレルギーにおけるこのサイトカインの働きを理解する研究を行っています。感染免疫では、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス感染やそれに対抗するために作られているワクチン接種時におけるサイトカインの役割を理解することで、これから現れてくる未知の変異株などに対しても効果の高いワクチンの開発を目指しています。アレルギーの分野でも、まだまだサイトカインがどのようにアレルギー炎症を制御しているのか分かっていないことは沢山あります。その全貌を知ることが、新たなそして副作用がなく、最小量で安価に治療効果が持続される抗体医薬の開発を目指して研究を行っています。

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