鶴田禎二先生との出会い 「初心忘れず 日々あらたに」

偉大な師との出会い

鶴田禎二教授

私は現在、花王株式会社にて研究開発部門統括をしています。ユニークな商品を完成させた研究員や、驚くような発見をした研究員が、その話を私に目を輝かせながら聞かせてくれることが、今の私の何よりの楽しみになっています。そんな私を見て、人生最大の恩師であった鶴田禎二先生は、「ほー、君がですか」と天国で笑っていると思います。
1985年、鶴田研究室に配属された時には、私はお世辞にも出来の良い学生ではありませんでした。学ぶ姿勢、研究に取り組む姿勢が足りなく、先生をがっかりさせていたことは間違いないと思います。ところが、4年生の秋頃に、ちょっと変わった発見をしました。先生にお話しした時に、先生がとても真剣に私の実験の話を聞いて下さったことを今でも覚えています。その時に先生は、「君のフラスコの中で起きたことは、君しか知らないし、世界でその実験をやっているのは君だけなんだよ」と言われました。世界的権威のある先生が、そんな大事な実験を私に任せてくださったのかと改めて驚きました。そして、やっとの思いで実験結果をまとめあげ、先生に論文をお渡しした時には、「ありがとう。よく頑張りましたね」と笑顔で握手して頂いたことを今でもはっきりと覚えています。その時から私の人生は大きく変わりました。その後は、先生に私の研究を聞いて欲しくて、一生懸命実験し、勉強もしました。気づいたら、博士号を頂くまでになっていました。先生は、超一流の研究者であるとともに、超一流の教育者でもありました。温かさがありながら厳しく指導する姿は、今でも私のありたい姿です。
1990年卒業後、花王株式会社に入社して、商品に使われる高分子素材研究を担当しました。その素材研究は楽しくもあり、苦くもあり、商品に応用されてその機能が高く評価されると、自分の科学が人のために役に立ったと喜んでいました。そして、自分の担当した商品を先生にご報告したりもしていました。

未来の科学者に託す想い

しかし、石油化学、高分子化学は、プラスチックごみ問題や安全性懸念物質などで、今や社会から厳しい目で見られるようになってきました。これまで、生活者のQOL向上のために、モノとエネルギーの充実、食と医療の充実を目指して、数多くの技術が生まれてきました。多くの科学者の努力は、豊かな社会の実現のはずですが、地球環境の急激な変化と、人類の欲求拡大は、その想定を遥かに超えたものになってきました。メーカーとしての私の会社も大きな転換期を迎えています。
そんな時、鶴田先生が弟子達に伝えた最後のメッセージを思い出さずにはいられません。透明の石に刻まれた、「初心忘れず日々新たに」という言葉です。「科学が社会のためにあることを忘れず、あらたな科学で科学の課題に立ち向かいなさい」と言われているように感じます。
理科大で科学を志す人には、今後の科学発展において、是非とも科学が成すべき役割と本質を追究して欲しいと願います。私もこの恩師の言葉を胸に、今後も研究に、経営に向き合おうと思っています。

左上二人目(本人)博士課程在学中 鶴田禎二教授(2015年没) 1980~1995 東京理科大学工学部教授 1989 より生命科学研究所所長兼任 鶴田先生及び集合写真は「1988年卒業記念アルバム」より

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