高等学校における「理数教育」のこれから

創立140年を迎えた母校は、これまで全国の理数教育を支える多くの同窓を輩出してきた。これからも実力主義の精神のもとで、新たな時代に相応しい資質・能力を育み続け、理数教育の拠点として「東京理科大学」を不動のものにしたい。

1. コンピテンシーに基づく教育改革の世界的潮流
2006年OECDの教育・スキル局長のアンドレアス・シュライヒャー氏は、これからの教育に関する提案として「能力の定義と選択」*(DeSeCo)プロジェクト研究の成果である「キーコンピテンシー(思慮深く考え、実践できる力)」について発表した。この発表が新しい教育改革の発端ともいわれる。これは従来のテストでは評価しにくい資質能力である「技能」、「態度」、「習慣」を教育の柱とする概念である。知識だけではなく、得られた知識の活用を確実にできることを求めており、「臨床医学」の指導体系が端緒ではないかと思われる。我が国では2005年正式に医学部臨床実習の試験であるOSCE(オスキー)の導入が進み、歯学部、獣医学部、薬学部に導入され、看護学や理学療法、保育の教育にまで広がってきた。母校の教職課程で重視してきた実践重視の授業は、その資質・能力の育成に寄与するものとして再認識できることである。

2. 学習指導要領改訂の背景
2018年に告示された高等学校の学習指導要領は、世界的潮流と我が国が置かれた科学創造立国としての位置づけ(Society5.0)等に大きく関係している。経済同友会の長谷川閑史元代表幹事は「何故日本の技術者はiPhoneのような製品を思いつけなかったか」と投げかけ、永田和宏氏著書の『知の体力』では「答えは必ずあると思ってはいけない。勉強で染みついた呪縛を解くことが『知の体力』に目覚めることである」と述べている。学習指導要領改訂では新しい時代に必要となる資質・能力の育成をつぎのように三つの柱で示し、その方向性を示した。
この三つの柱は、学校全体で育むものとして、全校種・全教科にわたり「主体的・対話的で深い学び」を通して学んでいくことを構造的に示している。この資質・能力の獲得のために「探究の過程」を重視することが求められ、授業改善が必至となっている。

3.「総合的な探究の時間」、教科「理数」の新設
学習指導要領の改定により、2022年度から、高等学校では育てたい資質・能力をはっきりさせた「総合的な探究の時間」を導入し、教科・科目での「探究活動」として位置付けた。加えて教科「理数」を新たに設置し、「理数探究基礎」、「理数探究」の科目を設けた。このように探究重視で新教科・科目を設置することは極めて意義深い。「総合的な探究の時間」の代替もでき「探究重視」の姿勢が打ち出されている。
この探究重視の方向性はスーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業で得られた成果であるといわれている。当初SSHは2002年度に開始された1期目3年間の指定であった。その成果を受けて2期目から5年間になり、現在は5期目の段階に入っている。令和4年度から認証校制度を導入し、自立に向けた取り組みも始まる。さらに「令和の日本型教育改革」の事例となる大学を含めた地域のあらゆる教育資源を活用・連携する愛媛県立の高等学校、海外の学校と探究活動での交流・共同研究事業(現在はWeb上が多い)、英語学習と教科理科との統合学習で生徒がポスター発表することなどがSSH校で行われている。現在、生徒はその活動をポートフォリオにし、推薦入試等のプレゼンテ―ションに活用することが広がっている。
母校主催の「坊っちゃん科学賞研究論文コンテスト」高校生部門が12回目を重ねた。生徒の主体性や探究力を育てるものとしてSSH校を含む多くの学校に認められ、母校志願者数の増加にも寄与し、この賞の運営面を支える理窓教育会の大きな誇りとなっている。最後に、生徒の育成に関われる同窓としての喜びと大きな責任を感じ、改めて母校の建学の精神を受け止め、会員一同研鑽に励む覚悟であります。

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