秋山仁先生に聞 く「数学」の醍醐味と有用性

大学進学の時、なぜ数学を志したのですか?

数学的真実は、人種にも宗教にも信条にも多数決にも依らず、また、真と一度証明された事実は誰が何と言おうと未来永劫真実であり続ける強さに魅力を感じました。深く考えさえすれば、未知の世界に潜む不思議を解き明かすことができるので、男子一生の仕事に値すると感じたからです。

学生の時はあまり成績はよくなかったとも聞いていますが。

なんで、そんな余計なことをご承知なんですか(笑)。自分なりには一生懸命勉強していたつもりですが、人より頭の回転が遅く、講義のペースと一致しないことがよくありました。たとえば、1、2年生で偏微分や重積分、微分方程式などを履修するならばと、髙木貞治の「解析概論」を必死になって何度も読み返しました。テストの範囲と自分が勉強したところが違ったときは悲惨でした。と云うと聞こえは良いですが、元来、怠け者で、ついて行けない授業はサボリ、雀荘“パール”や“緑”で中国語の初歩を学びました(笑)。中国語は冗談ですが、ドイツ語の本物の力を付けるために、ゲーテ・インスティトゥートに週3回通いました。また、英語は院生のとき日米会話学院に週5回通いました。

マドリッド講演ポスター

アメリカに留学されていますが、その後の研究人生に影響あったでしょうか?

米国は学歴や年齢はあまり関係なく、どんな定理をみつけ、どんな証明をしたか(実績)だけが問われる世界でした。恩師のミシガン大学のフランク・ハラリー先生はとても厳しい方で、“Another day, another paper”をモットーにしており、また、ミシガン大学の学是は、“Publish or perish”でした。留学前にはハラリー先生と共著の論文が1、2編出版できればよいと考えていましたが、彼の厳しい指導のお陰で十数編の共著論文を書くことができました。また、留学の最後に、ハラリー先生から全米レクチャー・ツアーのスケジュールを組んでもらい、数十の大学を講演してまわり、アメリカの数学の世界にデビューさせてもらいました。ハラリー先生からは「お前の英語はジャングリッシュ(Japanese English)だけど、丹精込めて結果を創り、十分準備し、大きな声で、ゆっくりプレゼンすれば、聴衆はきっと分かってくれる」と励ましてくれました。今でも、このことを肝に銘じています。

理科大に博士論文提出でもご苦労されたようですが。

当時の日本の数学会では、グラフ理論は新参者で、あまり高く評価されていませんでした。ミシガンから帰国後すぐに理科大に学位申請しましたが、「審査できる人がいない」と断られました。それから数年して統計学の権威だった山本純恭先生が理科大に赴任し、「グラフ理論は将来、とても重要な分野に発展する」と皆を説得してくれました。山本先生のお陰でグラフ理論の分野で日本で初めて学位を授けられました。

予備校でも教えられ、また東海大学に長く奉職されていましたね。

二十代後半は、日本医大で数学や統計、プログラミング等を教えていました。医学生は多浪が多いので、年齢があまり変わらず、学生たちと楽しい日々を送ったことを思い出します。将来、海外に留学し、本格的にグラフ理論や組合せ論を研究したいと考え、軍資金を稼ぐ目的で駿台予備校でバイトしていました。向上心の強い学生達の期待に応えていかなければ務まらない仕事でした。留学後、東海大に移籍し、長らく開発研究所の自由な雰囲気の中で離散幾何学の研究、NHK教育TVでの数学番組作成、国際数学オリンピックへの日本初参加などの活動に従事させていただいたことに感謝しております。

日本離散計算幾何学国際会議(JCDCG2016年)(於)8号館横

現在の研究テーマをお聞かせください。

20代の頃からグラフ理論の研究に20年間ぐらい没頭しました。ハラリー先生から、「インパクト・ファクタの高い専門誌から論文を出版することは大切だが、同時に学問発展のために、手間暇のかかる他人の論文の査読や専門誌の編集、学会の運営など縁の下の仕事を率先して行うことも大切だ」と兼々言われておりました。そこで、1986年に思い切って、Springer社から専門誌“Graphs & Combinatorics”を創刊しました。現在では、年に6回出版される格調の高い雑誌に成長しました。また、日本でもグラフ理論の優れた研究者が少しずつ増え、今では日本は世界で一目置かれる研究拠点に発展しました。その後、グラフ理論に比較的近い分野である離散幾何学にも関心を抱くようになりました。この分野はコンピュータやAIに直結する幾何学的対象を研究する分野で、応用が多岐に亘る数学の新天地だと思ったからです。1997年から、毎年、日本離散計算幾何学国際会議(JCDCG)を(主に理科大で)開催し、世界中から多くの研究者が参加してくれています。

数学体験館を造られた目的は、子供たちにも数学の面白さを学んでもらうことでしょうか?

理科大数学体験館

御存知のように、「理学の普及をもって、国運発展の基礎とする」が、理科大の建学の精神です。体験館は五感を総動員して数学の醍醐味を若者達に実感してもらう施設です。数々の模型や装置を用いて、定理や公式の本質や原理が理解できるように工夫しました。また、数学理論の応用を肌で感じることもできます。最近は毎年、国内外から1万人を超える来館者で賑わっています。また、数年前からは、ドミニカ共和国や岐阜県本巣市、和歌山県橋本市などに数学体験館を設立する手伝いをしております。

理科大の学生は一言でいえばどのような学生が多いですか?

概して、自分を飾らず真面目で芯のある純朴な若者が多いように思います。少し気になるのは、ともすると、大人しすぎて従順な学生が少なくないことで、坊っちゃんのように勇猛果敢で少し無鉄砲な学生もいて欲しいと思います。

最後にこれからの若い世代の人たちに一言を。

自分がやり甲斐を感じ、また、生涯を賭ける甲斐ある仕事をなるべく早い時期に探し、決して諦めず努力をひたすら重ねることです。そうすれば、あなたの頭上に月桂冠が輝くことでしょう。

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