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- 次世代医薬として期待される核酸医薬を 有機化学的手法により創製する
次世代医薬として期待される核酸医薬を 有機化学的手法により創製する
- 2018/12/26
- 大学, 理窓 2019年1月号
核酸医薬とは
現在市販されている医薬品の多くは、体の中にある特定のタンパク質と結合することにより薬としての効果を発揮しますが、私たちが開発している核酸分子からなる新しい医薬(核酸医薬)は、病気の原因となるタンパク質に直接作用するのではなく、タンパク質の設計図にあたるDNAやmRNAに結合することによって、病気の原因となるタンパク質そのものの合成を阻害します。
核酸は、相補的な塩基配列をもつ鎖同士が塩基対を形成することにより、二本鎖を形成します。この性質を利用して、mRNAの一部分に結合する人工核酸を設計し、二本鎖を形成させることによって病気の原因となるタンパク質の合成を阻害するのです。しかし、天然の核酸分子は、生体内で(※1)ヌクレアーゼと呼ばれる核酸分解酵素によって速やかに分解されてしまうため、安定化するための工夫が必須となります。
※1 核酸分解酵素の総称
研究テーマ
1.リン原子修飾核酸の立体選択的合成と医薬への応用
疾病関連遺伝子の発現を効果的に抑制するアンチセンス核酸やsiRNAなどの核酸医薬の合成を行っています。特に、リン原子の立体化学が厳密に制御されたリン原子修飾核酸医薬の開発に力を入れています。新しい反応や化合物のデザインには、計算科学を積極的に取り入れ、理論的なアプローチも行っています。
2.核酸結合性人工ペプチドの合成とDDSへの応用
二重鎖RNAに選択的に結合してRNAを安定化し、核酸医薬のDDSに応用可能な新規カチオン性人工ペプチドの合成を行っています。また、二重鎖DNAに塩基配列特異的に結合し、転写の過程を阻害する新しいアンチジーン分子(ペプチド核酸)の開発を行っています。
3.分子認識能を有する人工オリゴ糖の合成と医薬への応用
核酸医薬の効率的な(※2)DDS構築を目指し、二重鎖RNAのメジャーグルーブに選択的に結合してRNAを安定化する、新しい構造と機能を有する人工オリゴ糖の合成を行っています。
※2 ドラッグデリバリーシステム
ベンチャー企業設立
私たちの研究室では、世界に先駆けてリン原子の立体化学を制御したリン原子修飾核酸医薬の合成手法を確立し、その基盤技術を基にベンチャー企業(Wave Life Sciences)が設立され、米国NASDAQにも上場し核酸医薬の臨床開発研究を推進しています。2018年1月にWave社の寄付講座(核酸創薬化学講座)が薬学部内に設置され、新たな共同研究が開始されました。
研究室現況
現在のメンバーは23名で内訳は教授1名、助教1名、秘書1名、博士2名、大学院生10名、学部生8名であり、卒業後の進路は、製薬メーカーだけでなく化学メーカーにも就職しており、幅広い業種で社会に出て活躍しています。
[卒業生コメント]
齋藤 竜也 住友化学株式会社(薬・創薬2015/薬研・薬科2017)
和田研究室ではボラン修飾型DNAの立体選択的合成に取り組みました。モノマーの開発、オリゴマー合成、オリゴマーの分解酵素耐性や熱力学的安定性評価まで担当し、有機合成化学、核酸固相合成化学や生物学、物理化学など多方面から研究にアプローチすることで、大変実力がついたと感じています。これらの知識は現在の職場において大きな武器となっています。