- Home
- 理窓 2021年5月号, 理窓会
- 新型コロナウイルスのワクチン情報とコロナ禍での雑感
新型コロナウイルスのワクチン情報とコロナ禍での雑感
- 2021/5/1
- 理窓 2021年5月号, 理窓会
1.ワクチン情報
新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)が大流行しています。一般的にウイルスが体内で増殖すると体の免疫応答が発動し、炎症等が起きて感染者が自覚できるような症状が出るわけですが、COVID-19の原因コロナウイルスSARS-CoV-2は、体の免疫応答を遅らせる隙に増殖して他の宿主(周囲の人)に感染できるので感染が拡大しやすく厄介です。このため、ウイルス増殖を抑制する免疫応答が獲得できる予防ワクチンが期待され、驚くような速さで開発が進み、新しい技術を使った新型ワクチンが世界中で今使われています(下図)。
現在日本で導入されているワクチンはmRNAワクチンと呼ばれる新しいタイプのもので、従来のワクチン(例えば弱毒ウイルスを不活化したもの)とは異なり、SARS-CoV-2表面抗原のスパイクタンパク質の遺伝子のmRNAのそのもの(実際には最適化するための修飾が施されたもの)を、脂質ナノ粒子と呼ぶ入れ物に封入して体内に投与するものです。体内の細胞に取り込まれたmRNAからスパイクタンパク質が合成されて効果を発揮します。ニュース報道等でご存知のように、今日本で使われているこのワクチンは海外企業が開発したもので、特例承認(他国で承認販売されている国内未承認新薬を、条件付きで簡略化した手続きで緊急的に承認するもの)の後、日本政府との契約に基づき輸入されているものです。
2.ワクチン接種について
ワクチン接種については政府が優先順位を設定し、国の予算で計画的にワクチン接種を進めるものとなっています。一般国民に対しては「努力義務」という位置付けで、接種するかどうかは結局自分の判断で決めてくださいというものです。強制ではないが無償であり、かつ副反応などの重大な健康被害に対する補償があるので、自分ならば忌避するだけのデメリットがあるかどうか合理性に基づき判断するだけです。現在使われているmRNAワクチンの発症予防効果が95%程度(何もしない集団で100人発症すると仮定した場合、ワクチン接種した集団では5人発症するレベルに抑えられるという意味です)とされており、十分なメリットがありますし、現時点での副反応報告も想定内のように見えます(強いアレルギー既往歴のある女性は注意するようです)。別のタイプの新ワクチンとしては、人にはほとんど害のないアデノウイルスを使ってスパイクタンパク質の遺伝子DNAを体内に投与し、同様にスパイクタンパク質を発現させて免疫を誘導するものがあり、これも世界中で使われています。これらは海外でも強制ではないが接種を強く推奨されるものになっており、すでに2億人以上が接種を受けたと報道されています。これらを含め少なくとも9種類が世界で承認されて実際に使用されており、また臨床試験中のワクチンは76種類にも及ぶことから、今後もワクチン戦略は十分に拡大すると期待されます。
新たな問題は、特定の優位性を持った遺伝子変異株のウイルスが多発的に出現して感染拡大しており、今のワクチンで大丈夫かということでしょうか? ただ、mRNAワクチンは遺伝子変異株に対応することが比較的容易であり、実際に次世代ワクチンも開発中ですから十分期待できます。現在展開されているワクチン接種が一般の方々に行き渡るのは遅れるかもしれませんが、COVID-19から逃げるのでなく、正しく恐れつつ科学的に理解し、相手の弱点を探して合理的に対峙する。東京理科大学でサイエンスを学んだ皆様ならば、きっと対処できると信じています。