クロスボーダー/建築の実践を通して

略歴
東京理科大学理工学部、理工学研究科修士課程(小嶋一浩研究室)修了後、2000-2002年ロッテルダムのNeutelings Riedijk Architects、2002-2012年東京のシーラカンスアンドアソシエイツを経て、2012年よりドバイの ibda design パートナー。2018年にドバイと東京に拠点をおくwaiwaiを共同設立。2021年に千葉県勝浦市にOffice of Teramotoを設立。同年ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展UAE館のキュレーターとして金獅子賞を受賞。

 

クロスボーダー

建築設計の機会がより多く得られそうな国々を選んで活動してきました。幅広い実践の中で建築を思考したかったからです。野田キャンパスでの大学院修了後、2000年代初頭の建設ラッシュに沸くオランダで建築家としてのキャリアを開始しました。以後、東京・ドバイをハブにして越境を繰り返しながら様々な国で多種多様なプロジェクトを手掛けてきました。建築を成立させる条件や課題は毎回異なるし、その全体はいつもとても複雑です。予算や法規といった自明の条件のみならず、文化や伝統といった相対的に解釈される事象、地域固有の課題から気候変動問題などの地球規模で考察しなければならない問題まで、どのプロジェクトでも多数のレイヤーが重層しています。視覚的に美しいとか美しくないといった類の、審美的でパーソナルな判断では合理的な決定ができません。専門の垣根を越えた対話や協働によって、個人では想像しきれない多角的な視点を得ることが重要だと考えるようになりました。

ドバイ・東京・ニューヨーク・ヴェネチア

昨年の第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展UAE館(アラブ首長国連邦館)のキュレーションをワイル・アル・アワーと共に行いました。「Wetland」(=湿地帯)という展示タイトルで、環境に配慮した代替セメントを用いた建築プロトタイプを展示しました。砂漠のイメージのUAEですが、10のウエットランド(湿地帯)がラムサール条約に登録されています。ウエットランドにみられる塩鉱物のリサーチを進めていくと、湾岸諸国で盛んな海水淡水化事業の廃棄物である濃縮塩水を原料としたMgO(酸化マグネシウム)ベースのセメントを研究するDr.ケマル氏に出会います。氏の主催するニューヨーク大学アブダビ校のアンバーラボとアメリカン大学シャルジャ校と共に、このCO2を吸収しながら硬化するMgOセメントの調合方法を協働開発しました。

画像提供:National Pavilion UAE La Biennale di Venezia

並行して構造デザインとデジタルファブリケーションを東京大学の佐藤淳研究室・小渕祐介研究室と協働し、土型枠から製作した2,500個のサンゴ型のピースを積み上げて空間を構築しました。ピースを人力で積むたびに外形を追跡し、力学的な逐次最適化を施し、以後に構築すべき外形を補正します。ヴェネチアの会場と東京をオンラインで繋ぎ、施工と構造解析を同時に繰り返し行うことで常に最適解が変化していく、最後まで完成形が確定しないという施工方法を試みています。また本展の着想を得たUAEのウエットランドを、ニューヨーク在住のアーティスト、ファラ・アル・カシミによる写真で表現しました。国境を越えた協働と高度なエンジニアリングを用いた展示が、「手仕事と先端技術を組み合わせ、廃棄と生産の関係をグローバルとローカルの両面で考えさせた」と審査員に評価され金獅子賞(最高賞)を受賞しました。

建築の実践を通して

拠点をドバイから房総に移し、新しい挑戦を始めたところです。国境、文化、人種、世代、技術、職種などの、垣根にとらわれずに建築を実践するという事はどういうことなのか。都市と地方、個人と世界、人工と自然など通常は対立的にとらえられる事象も、分け隔てなく扱うにはどういう方法があるのか。これまでの通り、対話と協働による建築の実践を通して考えていきたいと思っています。同窓の皆さんとも何かご一緒できたら嬉しいです。

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