「下町ロケット」制作の原石は学生時代にあり

学ぶには申し分ない長万部キャンパス

私は今、TBSドラマのプロデューサーの仕事をしています。「半沢直樹」「下町ロケット」のほか「新参者」や「せいせいするほど愛してる」なども手掛けました。東京理科大学の卒業生であると知ると、理系の出身者であることに驚かれる方がたくさんおられます。

基礎工学部の一回生で、卒業の時は二回生でした。1年生は長万部で寮生活をすることになっています。日本武道館での入学式に出席したら、そのまま、飛行機に乗って北海道の千歳空港まで行き、千歳空港からは2時間くらいバスに揺られて長万部という町にやってきて、全寮制の寮に入りました。

〝おしゃまんべ〟という地名はこのときまで知りませんでした。もちろん読むこともできませんでした。千歳空港に着いたのが入学式当日の夕方で、すぐ暗くなり、街灯のない道のりが寂しく、走っても走っても真っ暗。不安の闇に包まれながらなかなか着かなかったという記憶が鮮明に残っています。愛知県の田舎から、東京の華やかな生活にあこがれていた少年にとって不安でいっぱいでした。寮に入ってみると、雄大な北海道の大地に最新の設備が整い、学校の敷地内に寮があり、食堂やグラウンドも完備されていて、学ぶには申し分ない環境でした。しかしながら、好奇心旺盛なその時期には、少々退屈な空間にも見えてしまったことも事実です。そのはけ口は、夜の宴会。酔いつぶれることを楽しむ日々を送りました。

偉大な友との出会い

寮生活を通して、とてつもなく大事なことは、偉大な友に出会えたことです。人って本当にさまざまだなと思える瞬間の連続でした。アイドル好きな人、山登りが好きな人、映画の好きな人、ドラクエ好きな人、とにかく日本酒の好きな人、などなど。

そんな中でとても驚いた友人が2人います。1人は、年がら年中、数学の数式を解いている人です。彼の部屋に行くと、本を片手に寝転がっていることがほとんどでした。最初は読書をしているのかと思ったほどです。実は、それは数学の本で、しかも頭の中で暗算をしながら解いていたということを後で知ったのでした。そしてもう1人は、部屋中が鉄くずだらけだった人。部屋に入ると金属特有の匂いが鼻につき、ビールの味も金臭くなるほどでした。実はその金属をコンピュータで制御してロボットを制作していたのです。全国のロボットコンテストに応募して、よく賞をとっていました。この「2人に共通」することは、いつ行っても必ず数式を解いたり、コンピュータ制御のテストなどをしているということ。実は、私は理系の科目が大好きで、数式もそこそこ解けたし、ロボット作りやコンピュータのプログラミングも好きだと思い込んでいました。でも、この2人を目の当たりにすると私みたいな人間が「好き」と思っている好きとは、次元の違う「好き」を発見できたのです。私みたいな人間が「好き」と言っては恥ずかしいと思いました。例えばの話として合っているかどうかわかりませんが、私は少年時代にプロ野球選手を夢見て、それなりに練習をしました。大人になってから、松井選手やイチロー選手が振ったスウィング数を知った時、絶対にプロにはなれないと確信したのと似ていると思います。そこから私は人に負けないくらい「何が好きか?」を探すために学生生活を送ることになったのです。もっと理系の方向を極めようと思わなかったのは、私らしいかも知れません。

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